クオリティフォーラム2024 登壇者インタビュー

品質へのこだわりと
変化に対応する組織風土への改革

三島食品株式会社
代表取締役会長
三島 豊 氏に聞く

聞き手:赤穂 啓子(フリージャーナリスト)
三島 豊 氏
三島 豊 氏
三島食品株式会社
代表取締役会長

プロフィール

1954年広島県生まれ。1978年東京大学大学院金属材料専門課程修了。同年、京都セラミック株式会社(現 京セラ株式会社)に入社。81年に同社を退社し、三島食品株式会社に入社。
84年、取締役部長に就任し、その後取締役関東工場長、専務取締役、取締役副社長を歴任し、92年、創業者から代表取締役社長を引き継いだ。2017年、代表取締役会長に就任。株式会社ミシマホールディングスの社長を兼務している。

会社プロフィール

1949年、三島商店として三島哲男が創業。ふりかけメーカーとしては後発の1951年にふりかけの製造を開始。1970年、当社を代表する製品となった「ゆかり®」を発売。発売当初は全く売れなかったが、学校給食をきっかけに子どもたちに人気がでて徐々に売上も伸びていった。
2020年、北広島町農園事業「紫の里」にて赤しその水耕栽培を開始。また、同年に走島海洋資源開発センター新設、スジアオノリの陸上養殖を開始。「良い原料を使い、素材を活かす良い加工をする」ことを原点と考え、より良い原料調達を目指して自社栽培・養殖に取り組んでいる。
「ゆかり®」と「かおり®」、「あかり®」が『まるで3姉妹のようだ』とSNSで話題を集める。その後、「うめこ®」、「ひろし®」、「かつお」、「鮭 ひろし®」、「しげき®」を発売し人気を集めている。

1. 品質へのあくなきこだわり

――赤しそのふりかけ「ゆかり」を筆頭に「かおり」「あかり」など、統一性があり親しみが持てる商品展開で、消費者から支持されています。基本理念に「楠」、基本方針として「良い商品を良い売り方で」を掲げています。どういう思いが込められていますか。
三島:私の父で創業者の三島哲男が言っていた言葉です。私も入社したときになぜ二つの言葉があるか分からなかったので聞くと「わしもわからんが二ついる」と言われました。その後、経営において「方針管理」と「品質保証」という柱があると知ったときに、父は動物的な勘で二つの言葉の必要性を察知していたのだと思いました。楠は大地にどっしりと根を張り、葉を繁らせ大樹となります。企業を永続させることを楠になぞらえました。一方、「良い商品を良い売り方で」は品質保証に対する当社の考え方を示しています。良い原料を使い、商道徳を守って売っていく。粗悪な商品で大儲けをするという考えはとらないということです。社員にも「この二つの考えをたがえなければ何をやってもいい」と言っています。そして「もし外れるようなことがあればストップをかけるよ」と言っています。
――実際にストップをかけるようなことはあったのでしょうか。
三島:原料に使う黒のりがとれなくなり、問題となったことがありました。仕入れ価格はグレードによって異なります。例えば、現在は10円ののりを使っているという時に、社員が「8円ののりに変えたら利益がでます。こちらにしたらどうでしょう」と言ってきました。言ってきた本人も、この提案は私がダメと言うということはわかっていたと思うのですが、利益を出すにはそうするよりないという思いもあったのでしょう。私はその時に「10円ののりではなく、30円ののりをつかったらどうなると思う?」と問いかけました。すると、その社員は8円、10円、30円の原料による3つのサンプルを持ってきて「30円のノリを使うともっとおいしくなりました」と言いました。いい原料を使えばもっとおいしくできることを知ってくれてよかったと思いました。おいしい商品を作り続けるという当社の考えが理解されたと思いました。
――品質へのこだわりを強く持たれています。素材の選択、製造工程など具体的に品質の向上にどのように取り組んでいますか。
三島:実際に栽培されている農家さんの哲学が大事だと思っています。誠実な方に作っていただきたいと考えています。当社の歴史の中でも重大な事態となったこととして、塩に凝固防止剤が混入するという事件がありました。20数年前のことです。当時米国やロシア、中国などの大陸の国々は塩を長時間貨車に載せて運ぶ時に、凝固防止剤を使っていました。そうでないと塩がカチカチに固まってしまうからです。ところが、日本では凝固防止剤の使用は禁止されていました。そこで当時取引のあった中国の企業に対して、凝固防止剤の使用について問い合わせました。するとある会社は「調べますので少し待ってください」、別の会社は「使っていました」と答えました。さらにもう一社は「当社は使っていません。保証書を送ります」と言って自社で確認した証明書を送ってきました。この3社の中でどこが信頼できる会社でしょうか。私は「使っていました」と言った会社が一番信頼できると思いました。そういう哲学的なところ、ものづくりに対する考え方を大切にしています。

ですから、社員にも極力現地で実際に栽培しているところや、採取しているところを見て、栽培者と話をするように言っています。当社は原材料を提供してくださる農家や企業とは、商社を使わずに直接取引をしています。海藻や魚も海の中に入ってとまでは言いませんが、これなら安心と思えるところまでは直接見に行くようにしています。赤しそについては、これまでは日本以外では中国で大々的に栽培してもらっていましたが、地政学的リスクが浮上してきました。そのため、新たな調達先を見つけるためにさまざまな努力をして、新たにタイで見つけることができました。実際に私も現地に行きましたが、素晴らしい農園でした。

自社栽培にも取り組んでいます。北広島町農園という赤しそを研究・栽培する農園を開設しました。もちろん、ここで当社が必要とする量を賄うことはできませんが、「ゆかり」のより良い材料を求めて品種改良をする場として役立てています。また、「青のり」の原料となるすじ青のりについても自社養殖を行っています。室戸と走島の2か所の海洋資源開発センターで海ではなく、陸上で養殖することに挑戦しています。
――生産面で工夫されていることは。
三島:製造工程について、日々改善活動をしてもらっています。できるだけ素材の良さを残すにはどうすべきか。同時にコストを下げていく方法はないかを常に考えています。その中で省人化を進めています。できれば工場もリモートワークができるようにしていきたい。自宅や外部で稼働状況を確認し、異常がある時だけ現場に行って修正するといった方向です。そのためには、生産の担当者もメンテナンスができるようになってもらいたいと考えています。
――消費者との対話で気づいたことや、経営に影響を及ぼしたことはありますか。
三島:たくさんあります。昔、「ゆかり」を食べたお客様から「変なにおいがする」という問い合わせがありました。何のにおいだろうと調べてみると、原料の赤しその畑の近くにエゴマがあり、知らないうちに交雑していることが分かりました。原因はエゴマだったのです。それから、種の管理をしっかりやろうということになりました。自社で香りのよい赤しその品種づくりをし、その種を生産者に提供して栽培するスタイルに変えました。生産者には種の自家採取を禁止し、指定した品種の種を毎年購入してもらうことで、品質を維持しています。

また、ある時「鰹節が魚臭い」というクレームがありました。当社はインド洋や太平洋で漁獲したカツオを冷凍保存したものを、煙で燻して乾かした荒節を使っています。その後に湿度と温度条件を整えてカビ付けするとより風味が増すのですが、鰹節を供給してくれている会社から「食品メーカーにカビを持ち込んでもいいのでしょうか」と言われました。そこで、カビ付けしたものを洗って提供してもらうことにしました。コストはかかりましたが、よりおいしい鰹節にすることができるようになりました。

2.社員の活力を引き出す経営

――「B面活動」について、始められたきっかけと、現在の取り組み状況について教えてください。
三島:私が入社した時に感じたのは、社員が「待ち」の姿勢に終始しているということでした。「社長の言ったことを守っていればそれでいい」という考え方です。本当にそれでいいのか。もっと社員の力を引き出すにはどうしたらいいかと考えてやりだしたのが、「就業時間の中で仕事に関することならどんなことをやってもいい。成果が出なくてもいいし、納期も何もない」という方針でした。私自身も工学部の出身で、趣味でいろいろなものを作っていて、それを社員が見ていたので、君たちもやってみたらという風に始まったものです。これをQCシンポジウムで紹介したらデンソーの高橋会長から「それはB面活動だね」と言われました。

ですから実際にやりたい人だけ勝手にやっています。報告は定例の社長、本部長診断の場でプレゼンテーションをするだけです。例えば、新型コロナウイルス感染症が流行していた時に顧客を訪問する営業活動ができないので、営業部門の社員が動画作成を始めました。商品を紹介する簡単な動画ですが、ストーリー仕立てでちょっと笑えるような内容でした。それが取引先の動画コンテストで1位をいただいたのです。動画作成についても撮影は東京の担当者がして、編集は北海道の担当者と分業でやったそうです。また、工場で製品が入った段ボールを積み上げるために大きなパレタイズロボットを使っているのですが、ロボットをキリンに見立てて踊らせるようにしました。曲も自作しています。これは工場見学に来た子供たちに大人気です。

B面活動をやっている時の社員はみんなキラキラしています。好きなことをやるから楽しいのです。仕事はおもしろくなければと思っています。そしてその中から、これまでなら思いつかないようなユニークなアイデアや提案が出てくるのです。
――目標達成の進捗状況を3色に塗り分けて表示しているとのことですが、その狙いは何でしょうか。
三島:「見える化ボード」として、さまざまな目標に対して進捗を3色で表示しています。目標を達成しているものはピンク、できていないものは水色といった具合です。これは達成していないことを管理することが目的ではありません。会社からこの指標をグラフ化しろといった指示も出しません。各部署がそれぞれ考えて、必要と思うものをグラフ化しています。人間は目に飛び込んできた情報が潜在意識に入ると、無意識になんとかしようという心理が働きます。一目でいい情報か悪い情報かが分かれば、そのための対処法を自分で考えるようになるのです。営業担当者は個々人の成績がすべて公表されています。過去の同じ時期の実績と比較するようにしています。「7月は去年より稼働日が2日少なかったから、昨年より数値が落ちているが、6-7月通してみればできている」というように、原因が見えていればそれでいいと思えます。さらに2か月、3か月先の売り上げ予想もできますので、この先厳しいことが予想されれば、今から何をすればいいのかと考え、対処するようになります。営業担当者からは「これがあるから自分がどう行動すればいいのか分かるようになりました」といった声も聞いています。会社が押し付けるのではなく、社員が使いたいと思えるようなものにしていくことが大切です。

よかれと思ってやったことがトラブルになることもあります。「最終的にだめだったら私にもってきて」と言っています。会社を傷つけるためにやったなら激怒しますが、そうでないなら、最終的に尻ぬぐいをするのが私や社長の役割だと思っています。先日も大きな得意先とトラブルがありました。これも最後は私が先方の社長と話すことで処理をしました。最後は何とかしてもらえることが分かっているから、社員は思い切った挑戦ができるのです。

3.メーカーからサービス業への転換

――今後の成長戦略について教えてください。
三島:昨年末に大手の食品問屋さんを訪問した時に先方の社長さんに「当社はメーカーをやめました」と言いました。一緒に聞いていた支店長はびっくりしていましたが、本当にそう思っています。これから目指すのはサービス業です。正確に言うならメーカーとしてのサービス業という意味です。モノづくりは大切ですが、それだけではだめで、モノやコトの価値を提供していかなければならないと思っています。日科技連の品質管理シンポジウム(QCS)でコマツさんのおっしゃっている「顧客価値創造」に大いに共感していてどうすればいいのかを社員と一緒に考えています。

例えば「ゆかり」をペン型の容器に入れた「ゆかりペンスタイル」という商品があります。6グラム入りで550円です。通常の袋入りの「ゆかり」と比べればグラム単価は16倍です。食品問屋さんに持って行ったら「こんな高いもの誰も買わないよ」と言われました。もちろんこれは想定内で、最初から通販サイトでの販売を考えていました。実際に通販サイトで販売したところ、SNSで話題になったとたんに大人気となりました。一時通販で品切れになった時は、オークションサイトで2500円という価格がついたこともありました。この商品を買ったお客さんは、「ゆかり」を買ったのではなく「こんな商品があるのを知っている」と周りの人にドヤ顔で言うことに価値を見出しているのです。メーカーの発想だったら、中身の価値のことしか考えなかったと思います。商品には別の価値をつけることができる。この意味を社員もようやく理解するようになってきました。今は社内でああでもない、こうでもないとわいわいやりながらアイデアを出し合っています。スーパーで新しい企画販売をやることを考えていて、今までならスーパーのバイヤーと「この商品はいくらの条件にする」といったことばかりの交渉でしたが、当社の商品と全然関係ないことでも、スーパーにとって集客になるようなことでもいいから提案しようと言っています。社内からでてきたアイデアの中には目が点になるようなものもありますが、これもだいぶ頭がやわらなくなってきた証拠だと思っています。

4.品質問題への警鐘

――品質に関する不祥事が相次いでいます。なぜこのような事態が起こるのでしょうか。
三島:戦後教育で間違った思想が入ってきたのではないでしょうか。道徳や修身が軽んじられています。価値基準が揺らいでいます。そこから道徳観の掛け違いが起こっている。それを直すためには、いいことと悪いことをしっかりと伝えていく必要があります。日科技連の「品質管理シンポジウム(大磯)」でもさまざまなことが発表されています。他社の不祥事を知ることは自社の品質管理体制を見つめなおす機会にもなっています。当社も過去にゆかりの回収騒動を起こしました。公表するかどうかで社内で議論がありましたが、最終的に公表することにしました。判断は間違っていなかったと思っています。