クオリティフォーラム2022

登壇者インタビュー

サービスエクセレンスの展開
~顧客満足を超える「喜び・感動」で、
新たな価値創造と利益を組織にもたらす~

東京大学
総括プロジェクト機構 総括寄付講座 特任教授の
水流 聡子氏に聞く

聞き手:廣川 州伸(ビジネス作家)
水流 聡子 氏

水流 聡子 氏

東京大学
総括プロジェクト機構
総括寄付講座 特任教授

1985年広島大学医学部医学科助手(公衆衛生学講座)、1996年広島大学医学部保健学科助教授、2003年東京大学大学院工学系研究科助教授、2008年東京大学大学院工学系研究科特任教授(現在に至る)。2015年より日本品質管理学会副会長、2016年より日本臨床知識学会会長をつとめた。
社会的活動としては、消費者庁消費者安全委員会委員、経済産業省日本工業標準調査会(JISC)総会委員・経済産業省製品安全小委員会委員、経済産業省ガス安全小委員会委員、ISO/TC176国内対策委員会委員、ISO/TC312国内対策委員会委員、ISO/TC312日本エキスパートを務めている。

1.サービスエクセレンスとは何か

――まず、サービスエクセレンスについて、かいつまんで説明してください。
水流:サービスエクセレンスは、「卓越した顧客体験をもたらす優れたサービスを提供し続けることができる組織能力」のこと。ある組織がサービスエクセレンスを獲得することで、エクセレントサービスの設計活動が展開されます。
すると、ポジティブな感情をともなう顧客体験の提供がなされ、これまで言われてきた顧客満足を超える「デライト(喜び・感動)」を、顧客が感じることになります。この喜びの感情は、顧客に組織への信頼を抱かせ、組織そのもののファンとなり、顧客ロイヤルティが高まります。その結果、顧客自らがリピーターおよび推奨者となって、新たな価値創造と利益を組織にもたらすことになります。リピーターと推奨者になる確率がぐんとあがるように、デライトを生む顧客体験をしていただく努力をすることが重要だといえるのです。つまり短期的には財務的貢献、中長期的にはリピーターの増加による当該サービスと提供組織の持続性に貢献することになります。
本講演では、サービスエクセレンス社会システム工学総括寄付講座で取り上げている内容をもとに、みなさんが自らの組織をチェンジマネジメントしていくための入門ガイドとして聴講していただければと思っています。
――総括寄付講座についても、ご紹介ください。
水流:この講座は、2020年10月1日、東京大学総長室直下の総括寄付講座として設置されました。ホームページがありますので、ぜひ見ていただきたいのですが、①産業②医療介護③地域・自治体、という3本の柱で研究をすすめてまいります。
皆さんが生き生きとして生きるためには「産業」が大事。いざとなった時には「医療介護」があり、幸せな生活は「地域」にあるといった形でとらえています。その国の産業がうまくいくことで財務的余裕が生まれ、医療・介護、そして地域といった公的財源を必要とするサービスが充実・強化されます。
1番大事なのは、企業なり病院なり自治体なりの組織で働く従業員(職員)が、生き生きとエンゲージメントを持って働けることで、その部分も重要なサービスエクセレンス要素という形で言及しています。
――2021年11月に「サービスエクセレンスに関するJIS策定」をまとめておられます。
水流:はい。そこでまとめたサービスエクセレンスの規格には、4つの側面がありました。
第一の側面は「サービスエクセレンスのリーダーシップ及び戦略」第二は「サービスエクセレンス文化および従業員エンゲージメント」第三は「卓越した顧客体験の創出」で、第四は「運用面でのサービスエクセレンス」です。
――それぞれの側面にそって、すべきことが明確になっているのですね。
水流:はい。ただ、こういう要素からなっていると説明したとき、どうしても抽象的になるので具体的な事例を準備する必要があります。国際的な企業の事例は今年度中には、ISOのテクニカルレポートとして出来上がると思いますが、日本の企業も事例として提示することになります。
そこで課題となっているのは、実際に企業が導入しようとするときに、自社事例もしくは自分の領域の事例で検討したいけれど、その部分は企業にとって秘密にしたいというところ。そうすると、企業事例の共有は社内教育でのみ行われることになるわけです。
今後、現在の組織がどう変わったらサービスエクセレンスという能力の獲得ができたといえるか、サービスエクセレンスを実装したそれぞれの企業の中で、作り込んでいくことになると思います。研究としては、とくに卓越した顧客体験の創出、エクセレントサービスの設計活動と、サービスエクセレンスという組織能力が、どの程度まで来ているのか注目しています。
自分たちの組織にサービスエクセレンス能力を作り込むのは大変で、最初のインプリメンテーション(実装)をできるだけ効率的にやるためにどうしたらいいのか、新しい規格提案としてそこを具体的に規格開発していけたらと考えています。
【図①】サービスエクセレンスという規格の4つの側面
【図①】サービスエクセレンスという規格の4つの側面
※出典:経済産業省「サービスエクセレンスに関するJIS制定」より

2.サービスビジネスの顧客は誰か

――8月初旬、総括寄付講座ホームページに「入門ガイドVer.1」がアップされました。
水流:はい。入門ガイドを見ていただければサービスエクセレンスの概要は、わかっていただけると思います。
少し話がそれますが、人々が幸せにイキイキと生きるためには、産業がしっかりしてないといけないけれど、生活をしているのは地域です。地域の中でもメンタルヘルスを支えていく活動は重要なものだと思います。
メンタルヘルスの問題は、私たちが所属している職場であったり、学校であったり、あるいは家庭がその原因だったりすることがあります。支えるのは地域社会です。メンタルヘルスの課題をもっている人を見守っていくような「地域の見守りロジック」を作りたいと思っています。
――入門ガイドは、サービスとは何かというところから始まっています
水流:はい。これまでサービスといえば、提供者が顧客に一方通行的に提供し、顧客の体験に対して対価を得るモデルでしたが、社会の成熟とともに変わってきています。一言でいえば、サービスは提供者と顧客との価値共創なのです。
製品販売やSI事業においては、提供者が判断した価値を、製品やシステムに機能として組み込み、提供していました。一方、サービスでは、使用段階で顧客が価値を判断します。そのため、提供者が受容者に一方的に価値を与えるのではなく、受容者となる顧客や関連する利害関係者とともに価値を共創していくことが必要です。
これまでも、価値共創の重要性は指摘されてきましたが、これは偶発的に起こるものではありません。顧客との接点、顧客の情報を収集し、観察するためのポイント、提供者と顧客との共創が促進される環境などを、サービスを提供する前に準備しておくことが提供者の取り組みとして必要です。
――サービスを提供する前段階が、重要なのですね。
水流:そもそも、サービスビジネスの顧客は誰になるか、そこから考えています。サービスビジネスには「BtoC」と「BtoB」があります。BtoBの場合、顧客企業(toB) には内部構造があり、経営者や管理者、従業員と複数の関係者が存在しています。
また、 顧客企業を通じて生活者や消費者へとつながっています(BtoBtoC)。そのため自社が提供するサービスがBtoBであっても、直接関わりのある顧客企業はもちろんのこと、その先にいるユーザ(toC)の体験に意識をむけることが提供者として必要です。
建材メーカーの YKK APはBtoBビジネスになりますが、顧客という言葉を使わずに、あえて「お得意様」あるいは「お客様」という言い方をするようにしていると聞きました。リピーターはお得意様、その他の顧客はお客様として、呼ぶことで、ファンになってくださっている顧客との共創、ファンになっていただきたい顧客との共創の在り方を考えることができるわけです。最終顧客であるユーザ(toC)=エンドユーザーである「お客様」に喜んでもらうために、そのお客様にファンになっていただくために製造している姿勢は共創環境を意識したサービスエクセレンスに近い状態といえます。このような事例は、日本にたくさんあります。つまり、多くの日本企業がサービスエクセレンスへの変革の可能性をもっていると考えることができるのではないでしょうか?

3.顧客とのリレーションを考える

――これからのサービスビジネスに必要なことは何でしょうか。
水流:近年、ビジネス環境の変化は目まぐるしく、顧客企業が提供者に期待することも変化し続けています。サービスビジネスは製品ビジネスとは異なり、サービスを利用するなかで顧客は価値を享受します。そのため顧客のニーズに合う顧客体験(Customer Experience: CX)が追求されてきました。
一方、CXといわれて久しく、顧客ニーズを満たす顧客体験を提供するだけでは、他社との 差別化は困難です。また成熟した市場においては、商品がコモデティ化し、価格競争におちいる危険性があります。そのため、他社の追随を許さないサービスビジネスの展開が求められてきました。
――追随を許さないためには、どうすればいいのでしょう。
水流:これからのサービスビジネスでは、提供する機能や価格のみならず、信頼や信用という側面もふくめて顧客との長期的な関係性を構築できるかどうか、それがリレーションをつくる上での重要な視点となります。
既存顧客と長期的な関係を構築する上で鍵となるのが「顧客ロイヤルティ」と呼ばれる、提供企業やサービスに対する顧客の愛着や信頼です。顧客ロイヤルティが企業収益に与える影響は広く認識されるようになっています。
――よくわかります。ただ、顧客ロイヤルティの獲得は難しいものです。
水流:そうですね。単に顧客のニーズを満たせばよいというわけではありません。そこで注目されてきたのが、最初にサービスエクセレンスの概要でもふれた「カスタマーデライト」になります。今、顧客ロイヤルティの獲得にむけて「カスタマーデライト」を生み出すための組織能力の構築が、改めて注目されています。
カスタマーデライトを達成できたと従業員が認識できたとき、提供者自身も喜びとやりがいを感じます。カスタマーデライトへの注目は、より顧客志向の企業活動と高いサービス品質の好循環も生み出します。

4.顧客ロイヤルティを確立するために

――なぜ、カスタマーデライトが注目されてきたのでしょうか。
水流:カスタマーデライトとは「私は非常に大事にされている」「いつも寄り添ってもらえている」「期待を超えている」という強い感情、またはそれらに由来する顧客が体験するポジティブな感情を指しています。
カスタマーデライトを感じた顧客は、普通にニーズを満たされて満足した顧客よりも、同じ商品・サービスの再利用率が高いだけでなく、他者へその商品・サービスを推奨する口コミの力が大きいことがわかっています。
顧客ロイヤリティを高めることは何を意味しているのでしょう。ふつう購入して再購入するときは、もう1回考えて評価をして、やっぱり同じものがいいなと思って決めることになりますが、顧客ロイヤリティを持っている人は、再検討のプロセスをショートカットして「これは楽しかった。こいつはいい」となります。
顧客ロイヤルティが高いと、サービスを提供している企業のファンになる。そのステージになると、あまり考えずに再購入まで行けるわけです。
――もう一つの推奨というのは、どういうことでしょう。
水流:他社への推奨は、感情からきている行動になります。顧客ロイヤルティが高いことは、その企業のファンになることですから、リピーターになるだけでなく、自分の好きな商品・サービスや、それを提供している企業を、家族や友人に推奨したくなるのです。
ここで重要なことは、その企業が自分を大事にしてくれる、寄り添ってくれること。自分たちが仕事をする上でもBtoBの顧客の、最終サービス提供のBの方から、いつも寄り添ってくれる。たとえば製品も、使っていただきながら必ず「どうですか」と聞いてくれたり、「こっちよりもこっちの方がいいかもしれない」とか、大きいものであればメンテナンスをどうするか、常に寄り添ってくれると、toBにデライトが生まれます。
デライトが生まれると、もう1度デライトを体験したいし、コストの問題で別の企業の商品・サービスが安い場合も、価値が全く違うので「デライトの体験価値にコストをかけることはリーズナブルである」と、顧客は気づくことになるでしょう。逆に、そこまで感じられるような商品・サービスを生み出している製造業にならないといけないんじゃないかと思っています。

5.カスタマーデライトの本質とは

――改めて、カスタマーデライトについて、詳しく教えてください。
水流:入門ガイドでは言葉の概念の説明は少ないので、ちょっと補足します。デライトは「喜び」と説明しましたが、これはサービスエクセレンスの相互関係を示すサービスエクセレンス・ピラミッドで説明するとわかりやすいかもしれません。
顧客の満足は、それぞれ段階、レベルがあります。基本的なレベル1は「コアサービスの提案」です。顧客の注文を忠実に守ってくれるなど、信頼が満足につながります。レベル2は「顧客へのフィードバック管理」です。顧客の問い合わせ対応、苦情処理的なものになりますが、いずれも顧客満足として、日本の企業では、すでに当たり前に行われていることになります。
――日本の場合、信頼に応え、クレームに学ぶことも実行してきました。
水流:問題は、そのレベルで顧客満足が終わったと勘違いすること。顧客ロイヤルティにつなげるには、さらに上のレベルが必要です。レベル3は「個別サービスの提供」で、一人ひとりの顧客に応じたサービスの展開です。これは顧客の一人ひとりに寄り添っていなければできないことです。
サービスピラミッドのトップであるレベル4は「驚き・感動の提供」となります。感動を提供し続けることはできませんが、「私は大切にされている」「私は、寄り添ってもらえている」と感じている顧客に、期待を上回るサービスの提供を訴求し、その結果、卓越した顧客体験(Outstanding Customer Experience)をつくりだすことを目指します。
そのような体験により顧客ロイヤルティが高まり、レベル1~2の顧客満足だけの人よりもリピーターになる確率、他者に推奨する割合が高くなり、ファンになって自分から他者に推奨してくれるようになるのです。
【図②】サービスエクセレンス・ピラミッド
【図②】サービスエクセレンス・ピラミッド

6.進めてきた顧客満足の次元を上げる

――顧客満足といっても、レベルがあったのですね。
水流:日本企業は、これまでピラミッドでいえば通常のニーズの充足で顧客満足を実現してきたわけですが、顧客満足は幅が広く、もしかしたら、多くの企業では、すでに顧客に寄り添っているといえるのかもしれません。
ただ、一人ひとりの顧客に寄り添っていくと、「過剰投資」と言われます。多くの企業では、そのあたりの区別がついていなかったと思います。それを、きちんと区別しましょう、ニーズの充足をしているのか個別対応をしているのか、苦情処理ではなく、個別に寄り添い新しい価値を充足しようとしているのか、そこを明確にしていきます。顧客満足からデライトを生み出すレベル3の顧客体験を提供している、と認識できれば、それが過剰投資なのか、そうではないのか、の判断ができます。過剰投資ではなく、重要な投資と認識されるかもしれません。
――One to Oneマーケティングが実現できますね。
水流:レベル3、4のサービスは個別ものとなりますから、すべてOne to Oneで行われます。そこにはコストが掛かりますが、それによってデライトが生まれています。そこが重要です。今までと考え方は変わらないけれども、クオリティを上げていくのです。今、私たちはレベル1で止めたいのか、それともレベル3に食い込みたいのか、それを可視化して、みんなで共有していくところが大切です。
顧客にデライトが生まれると、もう1度デライトを体験したいと思うし、別の企業で価格が安い場合に「デライトがないからだ」と判断できます。デライトの価値がコストに反映するのです。顧客は、カスタマーデライトに価値を認めるようになっています。

7.新たな顧客体験価値の創造を求めて

――サービスエクセレンス規格のポイントを教えてください。
水流:顧客の卓越したCX(顧客体験)をつくりだすために、顧客価値創造におけるポイントは2点あります。1つは「カスタマーデライトを実現する」であり、1つは「組織としての卓越性を有すること」です。
これら2つのポイントの実現にむけて、サービスエクセレンス規格では、「組織としての底力を上げるのに必要な仕組みや企業文化などの組織能力」と「卓越した顧客体験の創出に関する設計活動」の観点から、必要なツールやガイドを提供しています。
新しい卓越した体験を作り出さないとデライトは生まれません。誰もが知っているような普通の体験ではだめ。では、どうすればいいのか。
そこで、新たな顧客価値創造の形を考えてみませんかとアプローチしています。2つの規格があって解説文もありますから、自分たちがやっていることを、規格に沿って少し分析してみませんか。サービスエクセレンスは、一部の人だけが使うものではないということで、組織が全方位から取り組むべき組織的なスローガンという形になるわけです。
――顧客接点で何をするかがポイントになりますか。
水流:サービス提供者がいて、顧客がいるわけですけども、実際のタッチポイントで対面している人だけじゃなく、その裏にはさまざまなことが起きています。パートナーも今、たくさんいるわけです。そこで工夫をこらして顧客接点を増やし、顧客のデライトをつくり出すようにしなければなりません。
顧客が何を体験するのかというところが大事で、顧客が体験してタッチポイントを過ぎた後でも、物作りの会社では製品が残ります。その製品を使って、顧客が何を体験しているのか、そこはきちっとデータを取らなければいけません。

8.サービスエクセレンス規格の必要性

――サービスエクセレンスを実装するためには、どんな工夫があるのでしょう
水流:サービスエクセレンス規格は「一部の人」だけが使うものではありません。顧客に卓越した体験を提供するには、そもそも提供する組織にも卓越性がなければなりません。
組織としての底力を継続的に上げるためには、顧客と直接関わりのあるサービス提供者のみならず、これらが属する組織における「意思決定者、パートナー企業」といった方面でのアプローチが必要となります。
――自らの組織の問題を考える必要があるのですね。
水流:その通りです。このグローバルな経済が浸透している現代において、日本が先進国の仲間入りをして成熟した先進国になるためには、そもそも成熟した組織企業でやらないといけません。では、成熟した企業とは何かというときに、私は「人間中心で動いている」ことだと思っています。
顧客との関係を考えたときに、顧客ロイヤルティを高めるためには、顧客にサービスを提供する企業そのものが成熟していなければなりません。企業のミッション、ビジョン、ストラテジーに基づき経営者がリーダーシップを持って事業を推進する。
変化を恐れないカルチャーが従業員の中に根付いていて、企業の方向性を望ましいと思っている状態でないといけなくて、それで従業員エンゲージメントが上がっていく。自分の仕事が顧客を幸せにすること、顧客にデライトを生ませることにつながると思えば、従業員は企業を好きになるわけです。
――何よりもまず、従業員が自分の会社を好きだと思うことが必要なのですね。
水流:従業員エンゲージメントは、どうも最近、日本は下がっているらしい。アメリカは日本よりも高いらしい。なぜ、そうなったのか。
給与の問題とか色々あると思いますけれども、リーダーは利益率をあげなければいけないし、そのためには顧客を増やさなければいけないし、リピーターを増やさなければいけないし、新しい顧客もみつけなければいけない。つまるところ、顧客ロイヤルティをあげなければ企業は持続できません。みなさん、大変なんですね。
そんな状況で、顧客ロイヤルティを上げるためにどうしたらいいかと言うときに、リーダーがいくら笛を吹いても、また必死に働いてもダメです。従業員が動かないといけないし、ミドルマネージャーの人たちがそれはわかっていないといけない。サービスエクセレント規格は、そのあたりにも踏み込んでいます。

9.国際的に通用する企業組織を目指して

――新型コロナ禍が収束したあと、企業はどうしたらいいでしょうか。
水流:それは難しい問いかけで、まだまだ試行錯誤が続くとは思っています。現在、複数の組織の協力のもとで、サービスエクセレンスに関連する取組みをヒアリングしているところです。
先進国は、昔は欧米でした。欧米に対して日本がアジアのなかで、日本は先進国の仲間入りをしたと言っているわけです。しかし仲間入りをしたのち、今度は斜陽化します。ヨーロッパも一時期、斜陽化しました。アメリカに負ける、日本に負ける……ヨーロッパの国は1国1国が小さいので競争力が低いので、非効率だとか色々言っていたわけです。それが今、DXは完璧にヨーロッパが進んでいるわけです。
――ヨーロッパですか。サービスエクセレンスは、どうでしょう。
水流:ISOのサービスエクセレンス認証は、まだ始まっていませんが、欧州規格CENや、各国の国内認証としてのサービスエクセレンス的認証があり、サービスエクセレンスという用語は知られています。しかしながら日本ではこれからです。まずは日本の企業にサービスエクセレンスという組織能力モデル、エクセレントサービスを設計するための諸活動を知っていただくことが重要だと考えています。私たちが進めているのは、あくまでもガイドであり、こういった組織を目指そうという形です。認証はそのあとでもよいとして活動を進めています。ただ、ちょっと想像してみてください。
ヨーロッパの企業から「うちはレベル3~4の事業で、この製品を使ったサービスという顧客価値を提供しているが、そちらは?」と聞いてきます。相手は、顧客に寄り添った個別のサービスしか認めないと言います。それゆえ、日本の企業もレベル3の能力を持っていないとパートナーとして選ばれません。レベル3~4のパートナーとして選ばれずにレベル1のパートナーとなればバリューチェーンが生まれません。
――顧客満足は実現しているのに、デライトまでいけなければ下請けで終わってしまう。
水流:そうなります。ですから、日本が世界から選ばれる企業を、いくつ持つ国になるのかはすごく大事だと思っています。製造業で、顧客と一緒に顧客が最もよく使えるサービスを開発したのはコマツです。
コマツの組織能力はサービスエクスレンスに切り替わった。コマツでやったことは、タッチポイントをネットワークして、データポイントを決めてデータを吸い上げ、それを顧客にフィードバックして顧客の課題を特定し、課題解決していくことでした。当時はまだサービスエクセレンスという用語が知られていなかったという状況もあり、独自のコマツウェイとしていましたが、まさにサービスエクセレンスそのものでした。
――確かに、具体的な企業の事例になると、わかりやすいですね。
水流:サービスエクセレンスの事例で、1番わかりやすいのはサッカーのサポーターです。
サポーターは顧客です。完璧に参加し、エンゲージメント最高の人たちがファンになっています。ファンは絶対にサービス提供側が不利になることはしません。日本のサポーターは、ゴミを拾って帰る。ファンはサービス提供側に立ち、顧客を大事にし、企業も大事にするものです。
わたしは、病院のシステムで、看護師さんを支援するシステムを研究開発しています。それによって看護師に生まれた時間で、看護の質安全を強化するだけでなく、看護師が医師を手伝うことができるようになる。そうなると医師が患者さんとの時間を作ることができる、こうなると、患者さんは、看護師と医師から、個別に寄り添ったケア・診療を受けることできるようになりますので、最終的には顧客の喜び、カスタマーデライトに向かうことができます。それは、看護師・医師にとって最高の喜びとなります。だから顧客満足というより、いまはカスタマーデライトの方が重要なのです。
――本講演で聴講者に伝えたいメッセージがあればお聞かせください。
水流:今、企業のみなさんからカスタマーデライトの事例をお聞きしています。本講演では、いくつか典型的な事例をお話しできると思っています。楽しみにしていてください。