クオリティフォーラム2020

登壇者インタビュー

失敗のワナを考え、
それを通して失敗を未然に防ぐ取り組みを
AGCでは行っています

AGC株式会社 環境安全品質本部 品質部
品質マネジメントチーム マネージャー 岩松正治氏に聞く

聞き手:ビジネス作家 廣川州伸氏

岩松 正治 氏

1963年 愛媛県新居浜市生まれ。
1988年 旭硝子株式会社(現AGC株式会社)に入社。
1988~2001年
事業部門をいくつか経験、その中で品質管理、品質保証、お客様サービスセンター、製造管理、新製品開発などの業務に携わる。
2001~2011年
AGCグループCSインストラクターとしてQMS、CS分野のグループ内研修講師を務める一方、AGCグループ各場所の現場に出向き、アセッサー、ファシリテーターとして活動。
2011年~現在
AGCモノづくり研修センターに異動後は、マネジメント層から新人研修まで幅広く各階層別の研修を担当するとともに、2012以降は「失敗から学ぶ」教育を軸とし、主に安全・品質・コンプライアンス分野における教育の企画や実行に携わっている。

1.品質管理・品質保証部門でキャリアを積む

――昨年に続いて、失敗学の取り組み「その2」をお話しいただくとともに「失敗のワナ」を紹介していただきます。
岩松:はい。失敗展示ホールを活用した「失敗学講座」の導入、階層別教育への「失敗学講座」の導入、幅広いジャンルの失敗にフレームワークを適用する方法などとともに、これまで抽出された「失敗のワナ」を紹介させていただきたい。できれば一方的に紹介するのではなく、 フォーラムを聴講される皆様と会話ができるといいなと思っています。
――フォーラムがある11月、新型コロナ禍の状況は見えませんが、会話ができるといいですね。
岩松:はい。凄い世の中になってきたというのが正直な実感です。
私も在宅勤務中心で、会議はオンライン。たとえ新型コロナ禍がある程度収束しても、研修の試行錯誤は続くでしょう。今後、集合研修を知らない社員がでてくるかもしれません。
――オンライン会議は、新型コロナ禍で始めたのですか?
岩松:それまでは、集まらなければコミュニケーションはとれないと思っていました。でもリモートでやってみると、発見もありました。たとえば朝9時に、互いのコミュニケーションを密にしたい、最初くらいはみんなで情報交換しようと「朝礼」を始めました。実はうちの部署ではリモートワークになるまで、とくに朝礼はしていませんでした。
朝9時から10分か15分間。ギリギリに入るスタッフもいますが、5分前から待機しているスタッフもいる。その待ち時間、シーンとしていたら変なので、誰かが開始が近づくと音楽を流すようになった。
みんなで工夫を始めたわけですが、これが連帯感を生みました。リモートになって逆にコミュニケーションの機会が増えたかもしれない。ちょっと「いいな」と思っています。
――意外です。やってみるまで、わからないものですね。
岩松:今まで、対面が当たり前と思っていたので「本当に大切なことは何か」考えさせられました。リモートワークに限らず、せっかく通勤時間がゼロになったので、今までやりたくてもできなかったことにもチャレンジしたいと思うようになりました。
――さて、本題。AGC株式会社、旭硝子に入社されたきっかけを教えてください。
岩松:大学では物質工学を専攻していましたが、校舎が横浜市保土ヶ谷区の丘の上にあり、そこから旭硝子の中央研究所の建物が見えたんです。私も技術志向だったので研究職に就きたいと思っていて、その研究所が身近に感じられていました。
それで就職先を考えたとき、旭硝子が頭にうかんで研究所に見学に行きました。当時は面接も試験も、中央研究所でできました。
入社して横浜に配属になるかなと思いましたが、最初の配属先は千葉県の船橋工場。とくに希望したわけではありませんが「品質保証課」でした。以来、33年目になりますが、最初の数年は品質管理を軸に仕事をしてきました。
――その後のキャリアを、かいつまんで教えてください。
岩松:品質保証課でスタートしたものの、社内の人事公募という制度を使って特品事業部に異動、その後1998年に、特品事業部の事業を引き継いだリビングテクノロジー株式会社への出向も経験し、小さな事業の立ち上げを、いくつか経験しました。
その後、旭硝子に品質経営を推進する部署を立ち上げる話があり、そのスタートに合わせ2001年に旭硝子に復職し、経営企画室に所属。そこにできた品質向上推進本部事務局のメンバーとなりました。これら一連の経験が今日のキャリアにつながっています。
その後、CSR室を経て2011年からモノづくり・人づくり推進室で研修センター所属となり、それ以降、人材育成を担うことになります。研修センターでは、品質教育のみならず安全教育など、ジャンルの幅が拡がりましたが、仕事の質を高めることができる人材の育成に関わってきたので、ずっと品質の仕事に関わってきたといえるでしょう。

2.入社直後に衝撃的な体験


――最初の部署が現場だったんですね。
岩松:はい。工場のことを思い出すたび、当時の部長の顔が目に浮かびます。新入りにとって部長は雲の上の人、もちろん挨拶はしていますが、話したこともありません。
ある日のこと。工場のある現場の装置の前に立って作業をしていました。そのとき製品のガラスが「ガシャーン!」と割れ、飛び散った。もう、びっくりしました。「どうしよう?誰に言えばいい?」
慌てて回りをパっと見たら、部長の姿が見えた。たまたま部長が現場巡回しているときに事故が起きたんですね。
――それは、あわてます。
岩松:私は、部長を目にして「割れたガラスを、このままにしておけない。装置も壊れるかもしれない」と考え、壊れた製品に手を出そうとした。
そのとき部長が「岩松!」と私の名を叫んだ。
ただの新入社員の私が、名前を呼ばれたことにも驚きましたが、大声と口調から「お前のせいで製品が無駄になった」と怒られたと思ったんです。「これはまずい」とおろおろしていると、また部長の声がした。
「岩松、手を出すな。お前がやると怪我をするから、俺がやる」と。
――怒ったのではなく、危険を察知して行動を止めてくれた。
岩松:はい。それは、私が新人だったこと、名前を部長が覚えていてくれたこと、無茶な行動を止めてくれたこと、その三点が重なって、今でもよく覚えています。
今回の講演テーマでもありますが、その体験は失敗学では「ワナ」にあたる。そのときは、起きたことを記憶にとどめるだけでしたが、失敗学を知り、自分の経験をふり返っていたら「こういうワナに陥るところだった」と理解することができたはずです。
――それがワナだったんですね。
岩松:たとえば『まずいと思う事態が起きた時、人は隠そうとして焦り、無茶なことをする』というワナ。あのとき部長が止めてくれなかったら、私は慌てて割れたガラスを片付けようとして大怪我をしていたかもしれません。
私は研修センター担当になり、濱口先生の講演には8年間で50回以上、立ち会ってきました。そのなかで失敗に学ぶことが自分事になり、自分の体験にも失敗から学べたことがあるはずと思うようになりました。
――濱口先生には、研修センターでお会いしたのですね。
岩松:10年前、私が所属することになる研修センターでは「畑村塾」という研修があったこともあり、当時の社長が「うちは失敗が繰り返されるから、失敗展示ホールをつくって情報を共有しよう」と言い出し、畑村先生にもアドバイスをいただきました。
私は2011年3月に研修センターに異動しましたが、そのときには失敗展示ホールをつくるプロジェクトは始まっていて、プロジェクトのメンバーから「展示して知らしめる失敗事例を集めることそのものが大変だった」と聞きました。
――失敗展示ホールとは、大胆です。
岩松:失敗展示ホールの完成は2012年6月。学びの場としてスタートするのですが、単に失敗事例を紹介するだけではなく、講義や演習を交えた学びの場としなければ意味がないと考えて研修センターで「リスクマネジメントのための失敗学」という講座を作り、失敗展示ホールを監修していただいた畑村先生に、お弟子さんにあたる濱口先生を紹介していただいたのです。

3.失敗学講座をスタートする


――その後、50回以上講座に立ち会うことになる濱口先生の第一印象は?
岩松:正直、びっくりしました。そもそも失敗は「言いたくない」「隠したがる」ものですが、そこに濱口先生がピシっと、切り込んでくれた。目から、たくさんのウロコが落ちて、頭の中は濱口先生の言葉でいっぱいになりました。
私は、それまでずっと品質保証にも関わってきたので「失敗から学ぶ」ということについて、ある意味ではお題目として「当たり前」のようにも感じていました。ただ、それまでの失敗に対する考え方には、もやもやした疑問もあったのです。
――失敗から学ぶ話は、確かに、みんな言いますね。
岩松:失敗は、起こってしまったことから是正処置をすることに使えます。それも大事ですが、失敗は起こらないほうがいいに決まっているので、予防処置が大事なのではという疑問がありました。
そこに濱口先生の「言い訳にこそ、真の原因がある」という言葉がグサリと刺さりました。失敗には、つねに言い訳がある。言い訳を出し合い、そこからどうやって未然に防ぐかを話し合い、出し合うことで未然に防げるようになると濱口先生は続けました。
――濱口先生が口にすると、とくに説得力が増す気がします。
岩松:はい。最初は、グサリとくる。こんなことも教わりました。濱口先生は「ヨコ展開は、決してヨコへは展開しない」と言った。私たちは、すぐヨコ展開を求め、それが重要だと発言しがち。でも濱口先生は、「それは絶対に展開しない」というのです。
私たちには仕事の違いがあり、部署の違いがある。違いがあるところに、どこかの部署で、別の仕事をしている社員の失敗事例がヨコに回ってきても、自分事で考えられません。 自分の部署では、こう理解して、ここに注意していけば失敗が起きないなどとは、誰も考えないし、誰もそのように教えてくれません。他人事のまま、そのリポートをヨコに流すだけでしょう。
――だから、ヨコ展開は「ありえない」のですね。
岩松:そこに「どんなワナにはまったのか、言い訳から考えてごらん」と濱口先生は言われる。すると「ワナにはまらないようにするということでは、製品が違っても仕事の種類が違っても、部署にも関係なく、役に立ちそうだ」ということがみつかります。
私たちは、いつも「正しいコトをしている」と思って行動しています。ところが、どこかでワナにはまってしまう。どこかで失敗のカラクリにはまって、失敗する。それゆえ本人を責めるのではなく、失敗の言い訳を語ってもらい、そこから考えていく。
――堂々と「言い訳」に光を当たるところが、凄いです。
岩松:一般的には、失敗した人が弁明を口にすると「言い訳はするな」「言い訳は聞きたくない」「すぐに何とかしろ」などと突っぱねます。濱口先生は、「それでは、せっかく失敗から学べるのに、その機会をなくしてしまう」と言われたのです。
それだけではありません。さらにびっくりしたのは、「本人しか言えない特別な言い訳でなくてもいい。想像でもいい。まずは言い訳をしてみよう」と進めます。これは鳥肌ができるくらいに凄い主張だと思いました。
私は入社以来、品質に係わる仕事をしてきました。そこでは「失敗の原因を探るにはファクト、ファクト、ファクト。事実に立脚しなければだめ」という主張が支配的。単なる想像でものをいうのはNGだった。
そこに濱口先生は「フィクションでいい。これから起こるかもしれないことを防ごうとしているのだから、こういう可能性もあると想像することが重要」というのです。
――事実でなくてもいい……。確かにドキっとします。
岩松:私は、がちがちのQMSの社員でしたから、事実に基づくアプローチに慣れていたので「想像でもいい」といわれて、目からウロコでした。事実だけではなく推測で考えよう。想定でいい。想定のストーリーを作ろう。そう聞いたとき、これまでの疑問が解けたんです。
当時は、問題が起きても「うちの部署は関係ない」という社員がいて、何とかしたいと思っていた。そこに濱口先生は「みんな起こりっこない、自分には関係がないと思いたいので、見過ごしているが、こんなにもったいないことはない」と言われた。
社内で起きた失敗、その言い訳は、すべて自分たちが変われるチャンスとなる。それを他人事として見過ごしている。だからもったいないのです。

4.他人の失敗でも、自分事に

――他人の失敗をスルーすると、自分の失敗を防ぐチャンスが減る。もったいない。
岩松:失敗しようと思って失敗をする人はいません。みんな、正しいことをしている。それでも起きてしまうのが、失敗です。
安全の世界に、リスクアセスメントという考え方があります。起こったときの被害の大きさ、どれくらいの頻度で起こるかの確率を掛けて、リスクの高いものから対策を打ってリスクをさける。それは必要ですが、それだけですべての失敗が防げるわけではありません。
――どういうことでしょう。リスクアセスメントは、役立たない?
岩松:そんなことはありません。ただ、そもそも大きな失敗は「想定外」からやってくる。起きてしまってから「そんなことは、想定していなかった」ということになる。だから、計算ができません。
そう考えると、失敗学はリスクアセスメントを否定するのではなく、想定しにくいリスクも発見できる、見つけ方の一つの大事なツールと考えられると思っています。
私たちは「新しい考え方」がやってくると否定する気持ちがわくものです。しかし、今までの考え方を補完する、補うものと考えると、うまく導入できる。実際に失敗学は、そういう役割を担っています。
――なるほど。だんだん濱口先生の講義を聞いている気がしてきました。
岩松:私もたくさん濱口先生の講義を聞きましたから、どこまでが教わったことで、どれが自分で考えたことか混然一体なのですが、お伝えしたいことは一つです。
ぜひ、失敗を自分事として考えてください。そのため、今年の講義では「ワナ」や「カラクリ」にフォーカスし、ワナにはまりそうな場面を思い浮かべてもらうつもりです。
――研修を受講された社員のみなさんの反応はいかがでしたか
岩松:失敗学のように新しい考え方を学ぶ研修は、押し付けになるとうまくいかない。ですから最初は階層別研修に失敗学の研修を入れ、そこでキーマンをみつけて、その人の部署の長に声かけしてもらいました。
「よし、うちの部でも研修をやろう」という人や組織を支援する方向で進めました。どんどん広げようと思って進めている間に、あっと言う間に月日がたっていました。
――研修を始めて、どんな成果が感じられましたか?
岩松:ちょっと言い訳になりますが、失敗学の成果は、表現がしにくい。私も「8年も失敗学の研修を続けているけれど、成果はあがったか」と問われますが、私がよく「やらなかったらどうなっているか、考えてください」と言います。
当社では「Bad News First」という考え方があります。会社全体として「Bad News First」の考え方は、浸透してきたと思います。定性的な内容なので「Bad Newsのあがるスピードが50%早くなった」などとは言えませんが、「こんなスピードでは上がってこなかった」という実感はあります。
――会社には、失敗を口にすることをためらわせる雰囲気があります。
岩松:失敗例を取り上げ、事実関係の認定から入ると「どこの部署が悪い、だれだれが悪い」という犯人捜しに入ってしまう危険性があります。失敗学を後ろ向きに使うと失敗するでしょう。
それで、具体的な失敗談ではなく「ワナ」とか「カラクリ」に焦点を当てれば誰にでも起こりうることとして自分事としてとらえてくれます。
――やっぱり、ワナがいいですね。
岩松:ワナだから、みんなで注意しましょうという話なら、「そういうワナには、けっこうはまるよね」と、共感してもらえます。
もちろん「言い訳」も大事ですが、言い訳は「ワナをみつける、カラクリをみつける」ことに使う。そしてこの失敗にはこんなワナやカラクリがあるということを、ヨコ展開で伝えていけば、それらは他人事の事例ではなく、自分も、やってしまうかもしれない自分事となっています。
ISOに「是正処置」の項目があり、そこに「原因を除去するための処置をとれ」というような箇所があります。問題は、どうやって「原因」をみつけるかということ。ISOの規格には、そこまでは書いてありません。そのとき失敗学で言い訳から入るやり方は、真の原因をみつける、とてもいい方法だと感じたのです。
――失敗だと責任を追及されそうですが、ワナはちょっと違います。
岩松:責任追及ではないし、罰則で失敗をなくそうとするものではありません。みんな善意で、良かれと思って仕事を進めている。それを罰則で「失敗はダメ」と押さえつけても抑止力にはなりません。

5.失敗にまつわるワナ・ワナ・ワナ


――講演では、「失敗のワナ」を紹介していただきます。
岩松:今、10通りほど用意しています。その一つに『突然思考停止に陥る「これ、実績ありです」のワナ』というのがあります。私たちは「実績があります」といわれたとたんに、考えることをやめてしまう傾向にあるということです。
「実績がある」といわれて作り、一見同じようにできたので安心していたら、機能として組み合わせができない。似ているけれども、細かいところが微妙に異なり、実は使われ方が違っていたとか、条件が異なっていたとかが原因で、微修正では収まらず、作り直しになってしまう。
本当に実績があるなら、それでいい。でも自分で調べてみると使い方が違い、場所が違う。大きさが違うとわかってくる。なので「実績がある」といわれたからといって、そこでワナにかかって思考停止にならなくてもいい。いや、なってはいいけないのです。
このようなワナは、他にもあります。ワナに引っかからずに進めるのが一番いいのですが、ワナだとわかることも大事で、それが認識できればワナにはまることなく先に進むことができます。
――そのようなワナについて、たくさん紹介してくれるのですか。
岩松:はい。私の提示するワナに「ピン」ときたら、自分の経験に照らして「どうして、このワナが気になったのだろう」と考えていくと、重要な失敗を思い出すかもしれません。そうはいうものの、10種類のワナのすべてにピンとこなくてもいい。
ワナの文言を聞いて「何それ?」と「ピン」とこなかったら、それは、みなさんにとってはいいワナではありません。みんなが「あっ!」と思い当たる文言であれば、それはいいワナだということも、わかってきました。
私が用意する10通りのワナは、いいものもあれば、そうでないものもあると思います。今回、それをフォーラム聴講者のみなさんに判断をしてもらおうと思っています。
最終的には、みんなでワナを考え、そのことを通して失敗を未然に防ぎたい。そして自分の会社だけではなく、業界全体で、あるいは業界の外でも、失敗をなくしていくことに、役立てればいいなと思っています。
――インタビュー冒頭、集合型研修がいいといわれた意味がよくわかりました。
岩松:失敗は特別なこと、恥ずかしいことではなく、普通のことです。だから隠したがらないで、どんなワナがあるのか考えていきましょう。
そのための練習として、まず私がつくった10通りのワナを自分事してとらえ、「そうそう、あるある」なのか「ピンとこない」など、私に教えていただきたいと思っています。
失敗を予防する、なくすのはハードルが高い。でも他人事ではなく、自分事だと思ってもらいたい。自分事にすると仕事が増えそうなのでスルーしようという人もいるかもしれません。失敗のことには、なるべく触れずにすませたい。避けて通りたい。しかし、避けていると、ある日大きな失敗に出遭うかもしれません。
過去の失敗から学ぶことが、失敗をなくすことにつながります。私は、その気持ちこそ大切な宝物だと思っています。その気持ちがあれば、失敗に目を向け、言い訳に目を向け、ワナに気付き、これから発生するかもしれない失敗を未然に防ぐことができるので。

6.社会に失敗学を浸透させたい

――最後に、聴講されるみなさんにメッセージをお願いします。
岩松:当社には1907年に旭硝子を創設した岩崎俊彌が唱えた創業の精神で「易きになじまず難きにつく」というスピリットがあります。
失敗という存在に触れず、易しい道を歩くという選択肢もあるかもしれませんが、どんなに難しい道でも、根気よく、自らの意思でチャレンジしていきたいと思っています。
聞いてくださるみなさんも、自分の体験と照らし合わせ、さまざまなワナを発見し、それを失敗の未然防止に役立てていただきたいのです。
――困難を超えたところに、発見があるものですね。
岩松:そうですよね。当社の社長は、よく「成功の反対は失敗ではない。成功の反対はチャレンジせず、あきらめることだ」と言っています。「あきらめたら、試合終了」です。
失敗を成功の反対としてとらえてしまうと、恥ずかしい、隠したいとなってしまう。失敗は結果なので、恐れてはいけません。
もちろん失敗は、ないにこしたことはありません。だから予防処置をとり、少しでも失敗をなくそうとする。しかし失敗をなくすことを目的とするのではなく、失敗を恐れず、あきらめずにチャレンジすることが大事。このチャレンジが創業の精神でもあります。
私は研修センター勤務が長かったので、創業の精神を語る機会がたくさんありました。一般論ですが、創業の精神はお題目になりがちでしょう。でも私は「本当にそうだ」と心から心酔しています。チャレンジが大事だと、心から思っています。
――本当です。とくに、これからの時代には必要なこと。

岩松:成功から得られるものもたくさんありますが、失敗から得られる知恵や知識のほうが、各段に多いと思います。ですからチャレンジするときに失敗を恐れずにする。
当社の事例が、決して失敗学を広める「いい事例」とは思っていません。ですが私が体験してきたことを聞いていただき、少しでもみなさんの中に「失敗学は面白い、目からウロコだ。うちでもやってみたい」と思ってくれる人が増えてくれれば幸いです。そして、そのような人たちと一緒に学び合いたいです。
――当日、楽しみにしています。どうもありがとうございました。