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クオリティフォーラム2023 登壇者インタビュー

すかいらーくグループにおける
”持続可能な調達”に向けた取り組み

株式会社すかいらーくホールディングス
購買本部
購買政策グループディレクター
森山 英樹氏に聞く

森山 英樹氏
森山 英樹氏
株式会社すかいらーくホールディングス
購買本部 購買政策グループディレクター
1989年3月31日、商業施設向けブッフェレストランやフードコートなどの運営を担うニラックス株式会社※に新卒第1期生として入社。オープンしたばかりの幕張メッセで勤務をスタート。ニラックスでは飲食業の基礎の多くを学んだ。2005年、すかいらーくに出向して転籍し、購買本部に配属。その後、野菜、畜肉の購買業務を担当し、今日に至る。
(ニラックスは1987年に新日鉄と共同創設後、2004年にすかいらーく100%子会社化)

1. すかいらーくグループの特徴

――すかいらーくグループは日本初のレストランチェーンとして知られています。最初に、少し歴史的なことを教えてください。
森山(敬称略):「すかいらーくグループ」は1970年に郊外型ファミリーレストラン「すかいらーく」1号店を府中市に出店。「すかいらーく」のブランドは2009年に全店が「ガスト」などに転換されて今はありませんが、会社は50年以上続いています。
当社の特徴は、店舗のほとんど全てが直営ということ。私たちが調達した食材をセントラルキッチンで一次加工して、店舗で調理してからお客様にご提供する、それらを一貫して自社で行う垂直統合型サプライチェーンを構築していることが特徴であり、当社の強みとなっていると思います。
――それでは、御社の購買政策の特徴を教えてください。
森山:競争の激しい飲食業では、常にコスト削減が求められます。幸い、当社には創業時からのお取引先様も多くあります。そこには共に成長してきたという強い信頼関係があり、今日のすかいらーくがあるのは、彼らとの関係性のおかげとも言えます。従来、そうした関係性の中で、品質、規格があって「だからこの価格」といった具合に担当者間の交渉で決められてきました。その後、これまでのやり方を大きく変える出来事がありました。当社は2006年MBOを実施して非上場化され、ファンドのみなさんが経営に関わることで、調達の考え方も大きく変わることになりました。
――興味深いところです。どう変わったのでしょうか。
森山:ファンドのみなさんには、コスト削減の科学的な手法を教わりました。それまで全体最適といいながら、それぞれの部署がバラバラにやっていた。そこを購買・生産・商品開発等多部門を集めて、「コスト最適化プロジェクト」として全員で同じ仕組みを共有するようにしました。削減の方法も「レベル」という呼び方で定義し、横ぐしを刺すように、すかいらーくグループみんな同じようにしました。
――グループ全体の共通尺度ですね。具体的に教えてもらってもいいですか。
森山:レベル1は、従来型の調達戦略。規格を見直したり、数量や使用期間などの契約条件を変えることで交渉を進めます。たとえば、普通は使った分だけお支払いするやり方でも、年間で計画して使う量が分かったら、数量を固定して年間での有利な契約の交渉をします。
レベル2は、サプライチェーンの見直しになります。ここでは、工場の観点で効率化します。工場の生産性を高めるため、品目数を絞ったりします。例えばガストでは「これじゃないといけない」という材料があり、ジョナサンにも「これじゃないといけない」という原料があります。かつて、レモンの大きさがガストとジョナサンは違っていました。それを共通にする。調味料も、それぞれ「醤油はこれ」というこだわりがありました。
そのようなこだわりは全部取っ払ってはいけませんが、残す部分と共通化してもいい部分があります。調味料も、一つひとつきっちり決めました。調味料関係だと、値段が安い方に寄せても品質的に問題なければ、ボリュームが増えればコスト削減につながります。
――方法も含めて、全社で共通の方法をとるのですね。
森山:レベル3は、いわゆるオーバースペックの問題を解決します。これは結構重要です。メニュー開発担当には「お客様のために、こういうものを出していきたい」と言います。もちろん、その気持ちを否定はしないですが、どうしても、提供すべき価値以上のものもでてくる。お客様にご納得いただける範囲で品質の調整を行います。また、価格が上がってしまった原材料を他のものに置き換えるといったことも検討します。
レベル4は、プライシングとも呼ばれるものですが、売価を調整して適切な利益をいただく方法です。今、いろいろな原料費の値上がりがあり、すごく大変です。プライシングも同時に進めるということになります。レベル1からレベル4のそれぞれに、数値で目標をつけています。それを毎週プロジェクトとして回すわけです。手間がかかりますが、これを進めることで、事業を持続することができるはずです。

2. すかいらーくグループの調達

――仕組みを理解するため、何か具体的な事例があれば教えてください。
森山:そうですね、野菜についてみてみましょうか。最初、購買の野菜チームでは、野菜は野菜だけで最適を考えていました。それから購買企画チームができて、購買政策グループができると、要は組織的にやるようになった。その結果、野菜チームが単独で進めていたときより、合理的になりました。
――野菜では、どんな調達システムになっているのでしょう。
森山:かつて、野菜はお天気次第だと思っている人もいました。確かに天気は重要ですが、黙って天気に従うわけにはいきません。例えば梅雨時、雨降りでもお店は開店していますので、野菜は必要です。それで農家さんに「雨降りの中でも収穫してください」とお願いすれば、やってくれる。ただ雨降りで収穫すると、採れた野菜の痛みが早かったりします。
野菜は新しいものに越したことはないけれど、当社はスーパーではないので、お客様の数が予想できます。今日100人来ていたら、明日は最低でも80人は来ると読めますから、予定する使用量を農家さんにお伝えできる。そこで「明日は雨だ」とわかっていたら、農家さんも「明日の分を先に採っておこう」となるわけです。
――なるほど、天気次第というところが変わったのですね。
森山:当社はスーパーではないですから、必ず野菜はセントラルキッチンや店舗で加工・調理を行います。ですから、野菜は我々がふだん家で食べてるような形状じゃなくてもいい。キャベツも、大きくてもいい。すると農家の人も、畑で採れる量が増えるので面積当たりのコストを抑えることもできるようになる。
――なるほど、それで安く仕入れられるのですね。
森山:そこは考えていません。結果的に安く買えれば良いのですが、一番の優先は安定調達、我々の必要な時に、必要な品質・数量を確保することを優先にしてきました。その為、農家さん、生産者さんには、できるだけ、たくさんお金を渡せるようにしています。そうすると、また頑張ろうと思っていただける。それが持続につながります。もちろん、我々の予算の範囲内でですが。
――あ、逆なんですね。お金を、たくさん渡したい。
森山:安いことより、いいものを安定的に購買したい。安く買うことが目的じゃない。それはSDGsが問題になるよりはるか前、昔からやっていたことです。よく、キャベツがたくさん出来すぎて元が取れないから畑で処分してしまうといったことを聞きます。キャベツが再生産価格を割っちゃうから、運ぶだけ損してしまう。
もし市場に持っていけば、値段をつけ売ってはくれます。本当は100円で売れなければ利益がでないけど、市場ではそれ以下でも売る。そうすると生産者の再生産価格は維持できません。ところが、当社はそんな値段で買う必要はないわけです。
――なるほど、わかってきました。
森山:通常メニューには、ライスの原価はこれ、ハンバーグの原価はこれ、付き合わせの野菜はこれと、決まっています。それより高いと困りますが、それより無理やり安く買う必要もない。たとえ市場にキャベツがあふれていても、私たちは「今まで100円だったけど、こういう状況だから80円で」とか言う必要はないわけです。
何年かに1回、野菜が不作のこともある。その時、たとえば農家さんでは「儲けよう」と思えばできる場合もあるでしょう。しかし農家さんも、そこで儲けるより、当社に持続的に売るほうがいいと考えていただける。そうしたふうに考えられる方たちとお付き合いさせていただきたいと思います。
――そのあたりも、信頼関係ができていると感じます。

3. 東京オリンピックの持続可能な取り組み

――御社は、東京オリンピックのときにも話題になりました。
森山:東京オリンピックでは、組織委員会が「飲食提供に係る基本戦略」を公表していました。その基本的な考え方に、環境への負荷低減を含め、持続可能性への配慮については2014年にIOCが採択した「オリンピック・アジェンダ 2020(Olympic Agenda 2020)」の精神を尊重するとありました。
飲食提供の運営について調べると、持続可能性に配慮した「調達コード」なるものが定められていました。組織委員会は、この調達コードに合致した農産物、畜産物及び水産物を調達し、持続可能性の高い日本の食文化を国内のみならず国外においても分かりやすく伝えていく取組を後押ししていくとしていたのです。
――それで、御社も名乗りを上げたのですね。
森山:はい。調達コードの条件を満たしてないと、オリンピックの仕事はできません。委員会が言っている「持続可能性に配慮」というのは何かというと、要は国産の生鮮品については持続可能性に配慮した食材を使ってスタッフや全国のボランティアさんにも食事を提供できる企業を探していました。
持続可能な国産の生鮮品は何なのかというと、日本の場合、例えば野菜。肉も魚も生鮮品はあまり国産は使ってないですが、野菜は国産を使うわけです。これは食材だけじゃないので、それをちゃんと料理にしてできる会社は少ない。
調達コードの条件は、細かく定められていました。例えば農薬や肥料の管理はもちろん、外国人を雇用してる場合は、ちゃんとパスポートとか集団とか確認してますとあり、こうした取り組みがSDGsへの取り組みだと書いてありました。
――そんなことをしている企業は少なかったのですね。
森山:当社では、調達方針の中にサステナビリティの取り組みを入れました。それと時を同じくしてサステナブル経営の話などもスタートしたので、国内外のグループ全業態で、東京オリンピック・パラリンピック開催までにプラスチック製ストローの使用を取り止める方針を発表しました。

4. ISO20400の取得について

――その後、御社はISO20400の認証を取得されました。
森山:はい。2022年6月に、一部カテゴリにおいて、持続可能な調達の国際規格ISO20400認証を取得しました。ISO20400は組織の「持続可能な調達」に焦点を当てたガイダンス規格です。持続可能な調達に取り組むことで、Q(品質)C(コスト)D(納期)だけではなく、環境、人権、カントリーリスクなどの幅広いリスクに対応した調達が可能となります。
ISO20400の内容はそういうことになりますから「ぜひ、とりたい」という方針はあったんですけど、どうすればいいのか、やり方が全然わからなかった。そこでまず「フカヒレ」をテーマとして、やらせてもらったんです。
――中華料理の食材となるフカヒレですか。なぜ、フカヒレだったのでしょう。
森山:フカヒレでISO20400がとれたら、同じことを他の食材に広げられれば、食材調達に関してはISO認証をいただくことができるのかな、と考えました。全く何のリスクもない、例えばお茶とかにしてもよかったのかもしれません。ただフカヒレは、保護団体がサメのヒレを取って他は廃棄することを問題視していました。
要するに全部一気に取るよりも、まず一点突破をしてみようということです。また、国内の産地で確保しているものしか使ってはいけないという状況がありました。昨年は、まだコロナ禍での制限が続いていたので、海外に行くのは難しかった。そこで、国産の材料としては適当だろうとフカヒレでやらせてもらったんです。
――ISOの取得は、けっこう面倒ではなかったですか。
森山:毎回毎回、宿題が出ますので、対応が大変でした。ただ、お客様に対して環境に配慮したものを調達したいという姿勢も示せますし、何よりも厳しい調達基準に基づき、環境・社会・人権への配慮、生物多様性につながる持続可能な原材料調達に努めていることのアピールにはなったと思います。
――御社の事例は、きっと他社さんにも参考になると思います。
森山:そうなると、うれしいですね。ただ当社は、最初にお伝えしたように50年以上続いていて、お取引先との強い関係性のある会社です。規模も大きく、ほとんど直営店という特徴があります。
それゆえ、当社で進めていることを、そのまま自社にあてはめると効果はでないかもしれません。それぞれの経営環境に合わせて活用していただければと思います。
――ありがとうございました。フォーラムも、楽しみにしています。
【資料】持続可能な調達に関するガイダンス認証(ISO20400)