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クオリティフォーラム2023 登壇者インタビュー

部品メーカーから
音のシステムサプライヤーへ

~セキソーグループにおけるTQM活動~

株式会社セキソー
代表取締役社長 山田 昌也氏に聞く

聞き手:伊藤公一(ジャーナリスト)
山田 昌也氏
山田 昌也氏
株式会社セキソー 代表取締役社長
平成15年3月 国立信州大学 工学部 機械システム工学科卒業
平成15年4月 株式会社デンソー入社
平成19年3月 株式会社デンソー退社
平成19年4月 マルヤス工業株式会社入社 技術開発部 生産技術グループ
平成19年4月 株式会社セキソー入社(国内派遣留学)
平成19年4月 慶應義塾大学大学院 経営管理研究科入学
平成21年3月 卒業
平成20年3月 株式会社セキソー 常勤監査役就任
平成21年3月 株式会社セキソー 常務取締役就任
平成24年9月 マルヤス工業株式会社 取締役就任
平成27年3月 株式会社セキソー 専務取締役就任
平成30年3月 株式会社セキソー 取締役副社長就任
平成31年3月 株式会社セキソー 代表取締役副社長就任
令和2年2月 株式会社セキソー 代表取締役社長就任
現在に至る

1. 人づくりは何事にも優先する

――先々代(実父、山田信二会長)から引き継いだ経営の重点はなんですか。
山田:社長に就任した時期と新型コロナウイルスの蔓延とが重なったのは想定外でした。しかし、たとえ、世の中の状況が変わろうとも、当社では人財育成に力を入れています。人づくりは何事にも優先する経営の根幹であると思っています。企業の発展はそこで働く人の成長の結果だからです。
当社は従業員300人規模の会社ですから小回りが利く。お客様とのお付き合いも密にやらせていただいています。ですから「何かやるぞ」という時には、それに向けて一気呵成に力を注ぎ込むことができる。これは当社の大きな強みだと思います。
――「企業の力を支えるのは人である」という考え方の実証ですね。
山田:その通りです。当社には真面目に、愚直に、ひたむきに取り組んでくれる人たちがたくさん集まっています。そういう人たちがどんどん育ってきてくれています。
こうした中から、QCサークル活動の指南役を務める人財が何人も育っています。各部署における女子社員の活躍も自慢の一つです。
人づくりで大切なのは、さまざまな個性や性格をもった社員一人一人の力を最大限生かせる環境を整えることだと思います。

2. 自動車産業を担う一心同体の存在

――グループのマルヤス工業とはどのように連携しているのですか。
山田:当社が「樹脂や紙材料を中心とした音、環境製品」を扱っているのに対し、マルヤス工業は「金属材料を中心とした配管・環境製品」を主力としています。
どちらも祖父が創業しているので、自動車産業を担うという意識に変わりはないと思います。その意味では、一心同体の存在と言えるかもしれません。
業務上の生産技術も、海外戦略に対する考え方も共通する部分が多いですね。人的な交流では、QCサークル活動も一緒に推し進めています。
――QCサークル活動では、どのような連携を図っていますか。
山田:当社では、マルヤス工業と進めている小集団活動を「3Mサークル活動」と呼んでいます。「マルヤス・セキソーグループの、みんなが考え、みんなで取り組む改善活動」というキャッチフレーズの3つの区切りの最初の文字に共通する「M」にちなんだ命名です。その心は「全員参加」です。
まず、それぞれの職場の第一線の従業員2~8名でサークルを作ります。その上で、各職場の管理監督者が推進者として各サークルの面倒を見ます。各推進者は「推進者会」という会議体で年度計画を話し合います。
これとは別に、推進者同士が日々の悩みや進め方などを討議する「推進者研究会」を毎年開いています。

3. 成果を導いた人たちが改善を進める

――グループの人づくりでは「MF研修」にも力を入れていますね。
山田:MFは「マルヤス・セキソーフォアマン」の略語。改善を通じて人財を育成するためのプログラムです。メンバーは製造部や技術部門から選ばれた3名で構成され、70日間職場から離れて研修します。この研修は「だろう」や「はず」を排し、現場に出て生きたデータを取り、語り合う場でもあります。研修後はそれぞれの職場でその成長を生かします。
語弊があるかもしれませんが、この研修では初めから成果を求めません。しかし研修生は求められなくても、改善に向けて一生懸命に取り組むので、結果は付いてきます。成果が出れば、間違いなく達成感を覚えます。成功体験は人を変え、さらなる改善を進める原動力になるはずです。
――「初めから成果を求めない」ことの真意は。
山田:人が変わっていくプロセスを重視しているからです。例えば、不良率を5%下げるという目標を掲げるとします。しかし「5%」が独り歩きしてしまうと、小手先の対応で達成してしまうこともあります。その意味での成果を求めないということです。
それよりも、根本的なところに目を向けさせる。例えば「この不良はなぜ起こるのか」から始めると「では図面を変えてはどうか」「素材段階で手を打てないか」などといった論議が自然に起こります。そういう改善の大変さ、それを乗越えた達成感を感じ、人の目を開かせることが研修の目的です。

4. 企業体質強化に狙いを定める「3T活動」

――「3Mサークル活動」や「MF研修」と並ぶ独自の「3T活動」の要点は。
山田:活動の根底には「お客様第一・人間性尊重・まずは人づくりから」を掲げる当社の経営理念があります。目指しているのは、人財育成をベースとして、お客様に喜ばれる製品を提供し、グループの発展と地域社会に貢献することです。
「3T」はTPS(トヨタ生産方式)、TPM(総合的生産保全)、TQM(総合的品質管理)の頭文字をつなげたもので、これらをうまく融合させたことが2014年のデミング賞受賞につながったと思っています。
念のために、それぞれの言葉を補うと、TPSはムダの排除や流れ化改善、TPMは原理原則など固有技術の強化、TQMは顧客志向や管理技術強化を担っています。
当社では30年以上前から、TPSとTPMで企業の力を強化したものづくりを進めてきました。それを踏まえて、品質を中核とした「後工程はお客様」「顧客志向」のマネジメントを確立し、全員参加のTQMを推進しています。
――品質経営に深く関わるTQMを推進するうえで苦労なさったことはありますか。
山田:私は立ち上げ時の事務局に関わっていたのですが、やはり、初めはすんなりとは受け入れられませんでした。多くの社員が「TQMって何?」という受け止めだったからです。TQMを説明しようとすると、統計的手法の話が避けられません。しかし、統計は「失敗してからの話」になります。「管理だけで良くなるはずがない」という考え方もある。
しかし、すでにお話ししたように、根が真面目な社員が多いので、まずはやってみるかという空気が生まれる。そうこうするうちに、一緒にやろうという流れが起こる。そのうちに増えてしまって収拾がつかなくなった管理項目をグッと減らす。そういう試行錯誤を重ねる中で、方針管理の意味合いや大切さに気付く社員が増えてきました。

5.「良い音色のクルマを造りたい」

――講演タイトルにある「音のシステムサプライヤー」というキャッチ―な言葉にはどのような思いが込められているのですか。
山田:マルヤス工業との関係のところで触れたように、当社は音に関わりのある製品を手がけています。音は生活の中で快適に過ごすための重要な要素の一つです。クルマも音を発しますが、音は目に見えないので、その音源や伝達経路は理解しづらく、さらに複雑であるため、対策方法も含めて、まだまだ分からないことがたくさんあります。
そこで、開発にあたっては「お客様はどこの人か?」という分解から始めるようにしました。我々はサプライヤ―ではありますが、「運転者」や「車外の歩行者」など、最初から車になったことを意識して開発するようにしています。取引先の依頼で部品開発するのではなく、ニーズを先取りしてシステム提案していこうということです。
――「音のセキソー」というコア・コンピタンスを前面に打ち出そうというわけですね。
山田:当社はもともと制振分野での研究開発や製品提案に取り組んできましたが、2000年前後に「ポーラスダクト」というエンジン部品を手がけたことで、より「音」を意識した製品開発に力を入れるようになりました。
この部品はエンジンのダクトを不織布で成形したもので、心地よい加速音を実現しています。デミング賞受賞の前あたりから、音に対する当社のスタンスが決まったように思います。
今は、クルマから出る音やその伝わり方を把握するだけでなく、耳に届いた音が「どう感じるか」という官能評価の研究も始めています。一般的に、嫌いな音は「みんなが嫌い」な傾向があるのに対し、好きな音は「人それぞれ」でやりがいのある世界です。
――確かに、防音技術一つとっても、制振、遮音、吸音などさまざまな切り口があります。似て非なる消音という技術もありますね。
山田:防音は、音源と人の間に入って音のエネルギーを小さくすること。消音は、音源と人との間で構造体を用いて音のエネルギーを小さくすることです。こうした制音技術とは別に「もっと良い音色のクルマを造りたい」というお客様の要望もあります。これに応えるため、心地よいサウンドづくりにも協力していきたいと考えています。
音というのは不思議なもので、静かになればなったで、これまで気づかずにいたさまざまな音が聞こえるようになります。EVにはエンジン音がありませんから、風切り音やタイヤ音、空調音などを大きく感じるようになります。そこで、現在開発している最適システムでは、クルマのグレードや仕向け地、要求性能に応じたアイテムの組み合わせが提案できるような仕組みを整えています。

6. 快適な音を創るための独自システム

――音源と伝わり方と、その対策についてはどれくらい研究が進んでいるのですか。
山田:音源と伝わり方が全て把握できれば、事前にシミュレーションにて予測と対策検討ができるのですが、そうはなっていないのが現状です。運転席、助手席、後部座席のお客様などそれぞれに対し、エンジン音、タイヤ音などの音がどれだけ影響を与えているのかを理解し、それらの音がどのように伝達しているのかを丁寧に把握することが、対策につながります。そうすることで、有効な場所に集中的に対策品を設定したり、お客様の要望に応える最適システムの提案をしたりできるようになると考えています。
――音の聞こえ方を理解して、音のシステム開発に生かすという取り組みですね。
山田:はい。ですから、当社では開発の初期段階からお客様と一体となって、より良い音を創る製品をシステム全体で考えた最適設計を目指しています。そのために、音響工学に基づく解析・設計や材料開発、信頼性評価を部品ごとに行い、部品単位で機能・性能の向上を図っています。
そのコンセプトが、音源情報・伝達経路の分析ばかりでなく、音色まで含めた全体最適を図ることを目的とするSSMS(Sekiso Sound Management System)です。

7. 自動車業界全体を考えて俯瞰する

――これまで主にエンジン周りの音に狙いを定めてきた制音技術は、EV化の流れの中でどのように変わるとお考えですか。
山田:確実に言えるのは、駆動が変われば音の出方も変わりますし、車自体の構造も変わるので対策する部品も変化してきます。分かりやすいのは、エンジンと言う大きな音源がなくなると、他の音が目立って気になってくるということです。当然、音に注目した製品を手がけている会社として、お客様に新たな提案をすることが重要になってきます。
では、どうするか。当社の経営理念の筆頭にある「お客様第一」になぞらえて言えば、一つの部品だけに捉われないことです。限定された考えだけでものをつくると、失敗するリスクが高いからです。
それを回避するために考えられる方策の一つは、部品単位ではなく、システムで考えること。言葉を換えれば「俯瞰してものを見る」ということです。
――個々の構成部品レベルではなく、クルマ全体を捉えて考えるということですね。
山田:はい。やはり、世の中の大きな流れを見据えて対策を立てることは大切だと思います。すでに起きていることですが、新たな時代に備えて、お客様の組織が変化し始めています。
そうすると工数もどんどん足りなくなっていく。先ほど申し上げたように、これまでの部品づくりも変わります。ですから、例えば、システムパッケージという提案方法が有効ではないかと見ています。

8.「松・竹・梅」でパッケージ提案

――システムパッケージの提案というのはどういうことですか。
山田:例えば、タイヤ音の防音対策に使われるアンダーカバーという部品があります。多くの場合、樹脂製なのですが、吸音性を高めるためにすべて不織布に変えて欲しいと要望されることがあります。
技術的にはできるのですが、コストがかかる。ですから、本当にその選択で良いのかどうかを考えることがあります。
――そのような提案も「お客様第一」の理念に通じますね。
山田:そうですね。すべてを不織布化する、一部を樹脂製で補う、樹脂製の方を多くするなど、選択肢を増やせば、コスト対策にもなります。全体を考えた上での提案です。
ただ、いくら不織布の吸音効果が優れていると言っても、音の出る場所や伝わり方によっては、敢えて不織布を使う必要がない場合もあります。
そこで、不織布と樹脂との採用比率によって「松・竹・梅」を用意する。その上で、お客様の好みで選んでいただくわけです。この手法をシステムパッケージと呼んでいます。

9. 事業の成長は、やる気、やる腕、やる場

――本講演で聴講者に伝えたいメッセージがあればお話しください。
山田:講演では、当社の体質強化の活動についてご紹介いたします。我々はTPS・TPMの活動があり、最後にTQMを導入しましたが、これらは相反する別々の活動ではなく、経営の為に補完するものだと考えています。TQMは管理技術が優れているので、方針管理などで全体をまとめて推進するのに役立っています。また、大事な考え方である「顧客志向」を突き詰めていくことで、新製品の開発につながっています。
TQMをはじめとした諸活動で人が育ち、成長しようとしていることをお伝えできればと考えています。

経営理念である「お客様第一・人間性尊重・ひとづくり」の事例をご紹介したいと考えています。これらはバラバラな概念ではなく、互いに深い関係にあります。考えてみると、事業の成長を支える技術力も生産力も営業力も、すべては、その人の「やる気、やる腕、やる場」に委ねられている部分が大きいのではないでしょうか。そういうチャンスを用意するのも経営者の務めだと思います。
人によっては、与えられた発表の場で、成長を感じることもあります。そういう人が育っていくことも、経営理念が導く一つの成果であることもお伝えできればと考えています。