1.将来の経営幹部候補者の登竜門(事業構想力を身につける)
聞き手
:貴社からエグゼクティブセミナーに2020年からの2年間で、6名という多くの方をご派遣いただきました。長期コースにこれだけの多くの方々に参加くださったということは、派遣責任者として、ねらい、想いなどがあったと推察します。このあたりを、是非お聞かせいただけませんでしょうか。大塚
:まず、当社における次期経営者・リーダーの育成という課題がありました。部門を代表し次世代を担う人材に対しリーダ候補として何を学ばせるべきか、議論を重ねる中で出された結論は、専門性の高さとマネジメント力は言うまでもなく、会社全体を俯瞰した経営者視点での事業構想力が必須であるとのことでした。
事業構想や戦略を立案するためのプロセスを学ぶには、短期セミナーに参加すれば学ぶことはできます。ただし、そこでは概略的な事しかわからず、具体的にどう考え、そう進めればよいのか、という事までをなかなか学ぶことはできません。また、構想(企画)だけではなく、実施計画まで落とし込むところまでを具体的に学べる教育を探していたところ、 見つけたのが、日科技連の「事業構想セミナー」でした。
聞き手
:「事業構想セミナー」は、事業構想から組織能力の獲得までのステップの全体を網羅した“ダイジェスト版”です。大塚
:「事業構想セミナー」に当社から1名派遣したところ、参加した者が極めて高い評価をしていました。しかしながら、やはり「概略版」であり、本格的にこのステップを学ばせたいと思っていたところで「JUSE^エグゼクティブセミナー」に出会いました。長期間じっくりと学んでいく、という点も含めて当社の目的に合致していました。聞き手
:貴社内で「多くの事業構想人財を育成する!」というメッセージの表れですね。松尾
:その背景を少しお話しします。当時、社長の小笠原からも、ここ数年次期経営者を育てる教育が実施できていないのでは、という指摘がありました。当社には、多くのグループ企業があり、適宜社長をはじめとした役員の入れ替えを実施していますが、やはりグループ経営力強化のために計画的な役員人事の実行とそれを実現するための候補者の早期育成が必要でした。また、将来の経営者層には、「経営者視点での事業構想力を身につける」という訓練が絶対的に必要であるとの思いから、計画的なトップ養成カリキュラムとして登竜門となるべくセミナーを受講させるべきと考えたのです。聞き手
:貴社ほどの企業であれば、役員・経営幹部への教育プログラムは体系化されていると推察しますが…。大塚
:もちろん、教育プログラムは存在します。しかしながら、当時、事業戦略プログラム等の外部研修に派遣していましたが、受講後ヒアリングをすると、「話は面白いのだが、どうやって実践に落としていけばいいかわからない」、「セミナー内容が、実践に活かせるのか?」というような声も多く寄せられていました。松尾
:「中・長期経営計画の策定に携わった自分たちが今更セミナーを受講して意味があるのか」といった意見もありました。大塚
:そのような背景もあり、実は当該教育が5年ほどストップしていた時期だったのです。聞き手
:そのタイミングで「JUSE-エグゼクティブセミナー」と出会った。大塚
:はい。そうです。きっかけは、2019年6月に開催された「第108回の品質管理シンポジウム」(日科技連主催)でした。当社・会長の津田がシンポジウムに参加したのですが、その際、エグゼクティブセミナーの主任講師でもある加藤雄一郎教授(名古屋工業大学)も参加されていました。シンポジウムで加藤先生の提唱するコンセプト・方法論をお聞きし、強く共感したことから次期経営リーダ育成プログラム再開に向けた検討が始まったのです。2.企業の持続的成長と存在価値最大化の実現には三方よしの顧客価値創造と
それを実現する組織能力が必須である。ただし、そのための正しい道のりや手法を知らないと顧客価値創造は実現できない。
聞き手
:どのような点で、エグゼクティブセミナーは“使える”と感じていただいたのでしょうか。大塚
:セミナーのコンセプトである「儲かり続ける…」がよいですよね。「どうすれば儲かり続けるのだろう?」と興味を引きました。当社でも戦略立案、事業構想は、自分自身で考えながら実施しています。みんな悩みもがきながらやっています。これはこれで意味はあるのですが、正しいやり方や方法論を学んでいないため、やはりどうしても自己流になってしまいます。ということはアウトプットのばらつきも大きいということです。
いわば、「安川版事業構想」の手順を確立することはとても重要なことと考えました。
聞き手
:この大変革の時代に中・長期的に企業が成長し続けるには、「事業構想を企画できる役員候補を絶え間なく育成していく」というお考えにはとても共感いたします。大塚
:「顧客価値創造(お客さまを勝たせる)」の実践により「企業の持続的成長」と「企業存在価値の最大化する」、そのためには、経営基盤となる人と組織力強化が必要で、その基盤強化のためのツールがTQMと当社では位置付けています。当社は、経営理念として品質重視と企業の持続的発展、需要家への奉仕を掲げ、その実現に努めるとともに、世間の信頼を高め、もって会社の繁栄と自らの幸福を求めるとし、社員ひとり一人の行動指針としてお客さま本位を第一に掲げています。
まさに、持続可能な社会の実現に向けた顧客価値創造(お客さま本位)を通じた企業の持続的成長(会社の繁栄)と企業存在価値の最大化(世間の信頼向上)の実践をもって自らの幸福を求めるというもので、顧客価値創造は安川電機のDNAなのです。
したがって、経営者や役員だけはなく、社員全員が「お客さまの価値をいかにして創造するか」、という事を常に考えていく必要があります。
聞き手
:とても素晴らしいDNAですね。大塚
:しかしながら、いくらこれを唱えていても、そこに行きつくまでの正しい道のりや考え方、手法を知らないと、「顧客価値創造」とは言っても簡単に実現できるものではありません。それを学ぶために参加したのがエグゼクティブセミナーでした。3.顧客価値創造の手段が「i³-Mechatronics」
聞き手
:貴社が掲げている「i³-Mechatronics(アイキューブ メカトロニクス)」が各所から注目されています。「新たな産業自動化革命の実現のためのスマート工場化に向けたソリューション提供」である i³-Mechatronicsが、エグゼクティブセミナー派遣とも関連があるように推察しています。松尾
:はい。その通りです。「i³-Mechatronics(アイキューブ メカトロニクス)」は、
① integrated(統合的)、②intelligent(知能的)、③innovative(革新的)
の3つの”i”のステップで進めていく、ソリューションコンセプトです。
具体的にはまず工場のセルやシステムの機器や装置を①integrated(統合的)でデータを視える化してIT層へとつないでいきます。次に収集したデータを②intelligent(知能的)に分析・解析してフル活用していきます。そうすることで稼働している設備の向上や生産品質の安定といった③innovative(革新的)な状態にし、その結果としてお客さまが目指すスマート工場化に向けての課題解決につなげていきます。
i³-Mechatronicsについて(安川電機WEBサイトより)
聞き手
:i³-Mechatronicsは、いわゆる「コト価値の提供」を目指したものですね。大塚
:そう言ってよいと思います。大きく言えば、顧客価値創造をするための手段が、我々では、“アイキューブメカトロニクス”なんです。お客さまに喜んでいただくにはどうしたらよいか、という事を考え、それを実現した上で「いかに儲かり続けるか」、ということを、事業構想のフレームに当てはめて考えたのが、昨年(2020年度)のエグゼクティブセミナーでした。4.経営者になっていく人財の顧客価値創造力(“デザイン思考”)をエグゼクティブセミナーで向上させたい
聞き手
:昨年度の5名のご参加から1年近くが経っていますが、エグゼクティブセミナーで学ばれたことが、お役立ちできているかどうかという点が気になります。松尾
:間違いなく役立っています。エグゼクティブセミナーの「実践研究」で参加メンバーが検討した内容を、現在も実践しPDCAを回していますよ。2020年度参加者の人選も、i³-Mechatronicsを進める上での主力メンバーを各部門から選選定しました。今は、各人がそれぞれもう一段上の立場で、セミナーで学んだことをもとに実践を進めています。昨年参加の5名は、次世代の経営者になるための力をつけることができたと思っています。
大塚
:経営と結びつけて、セミナーの内容を連動させ、自部門で落とし込むようにすることができるようなる、というのが派遣の目的の一つでしたからね。聞き手
:本セミナーのように役員、経営幹部層対象の研修は、企業の教育体系に組み入れ、例えば新任役員教育として活用するという例も多いのですが、貴社のように、会社の方針に照らして、それに合った参加者を人選する、という方式も効果的ですね。大塚
:こういったセミナーを受けさせるのは、次世代を担う人財の顧客価値想像力(デザイン思考)を向上させたいからです。これまでの価値観が通じない新たな価値をどのように思考し顧客価値として創造出来るか、それを自社・自部門で上手く生かすことが出来るようになって欲しいですね。聞き手
:2021度は、TQMの推進部長をご派遣いただいたのは、TQMという視点でも事業構想について理解してほしい、という想いがあってのことでしょうか?大塚
:その通りです。「TQMを推進する」というのはどういうことなのか。顧客価値創造を実現して企業価値を最大化していくためのツールとしてTQMがあるわけで、この部分を理解してもらいたかった。これが理解できないと、経営という視点にはついていけなくなってしまうので、セミナーで学んで欲しいと思って送り出しました。最近はTQM推進部長より顧客価値創造/コト価値保証のうんちくを逆にレクチャーを受けるようになりました。(笑)聞き手
:この先、貴社からエグゼクティブセミナーにご派遣いただくとしたら、どういった立場の方をご派遣されるかのイメージはお持ちでしょうか?大塚
:来年は、当社の中期経営計画の最終年度なので、次期中計にマッチした人材を派遣したいイメージは持っていますね。当社では、それぞれの事業ドメインで人材が育っていくため、各分野の専門性(縦軸)は高いのですが、経営層になった時に、視野を広げてものを見る(横軸)という観点で登竜門としたいと考えています。5.TQMは経営の基盤、顧客価値創造にも役立つ
聞き手
:御社では、長年TQMを推進されていますが、社員の皆様の根底には、TQMの思想や文化が脈々と根付いていると感じています。大塚
: 方針管理・日常管理・QCストーリー・手法・全員参加での改善マインドの醸成は当社の文化・社風の一つになっています。というのも、オイルショック後の厳しい経営状況下での経営再建として導入したTQM活動の活発化と士気高揚が、それまで明文化されていなかった創業の精神と経営理念を『社憲』として制定するきっかけとなっていることが背景にあります。聞き手
:価値観の共有化、といったところもあるのだと思います。先日、小笠原社長とお話しして印象的だったのが、役員候補の昇格論文はすべてQCストーリーのステップに基づいて書かせている、という点でした。大塚
:QCストーリーというのは、様々な仕事の作法・型になるので、当社ではQCサークル活動の発表だけでなく、あらゆる報告書やお客さまに出す提案書などもそれに基づいて作成しています。松尾
: その点は本当に徹底しています。実は、昨日も当社でグループ全体のQCサークル発表大会があったのですが、その中で、当社専務から開会のあいさつの中で、せっかくいい改善活動をしていてもQCストーリーを理解していないがために、評価を落とされる場合もある、というコメントが出たくらい、成果に対する評価や職務遂行プロセスなどQCストーリー(思考)の重要性を徹底しています。
聞き手
:エグゼクティブセミナーには、他社からも多くの経営レベルの方が参加されていますが、参加者同士の横のつながり、情報交流という意味ではいかがでしょうか。松尾
:参加者の方の中に、当社のお客さまもいたので、営業部門からの参加者は交流を続けていると思います。やはり、他社の優秀な方々との交流を通じて、他流試合的な競争意識の醸成や気づきや発見が多く、自己研鑽の重要性と成長に繋がっていると考えます。それ以外に、当社内の参加者間のつながりも強まった気がしますね。セミナー受講前まではお互いに知らない間柄だった人もいましたが、今回のセミナー受講により、関係性ができ強固な横の繋がりが出来ました。これもセミナー受講の効果です。
聞き手
:最後のご質問になりますが、これからエグゼクティブセミナーに参加しようと考えている方へ、一言お願いしたいと思います。やはり、金額や期間の関係で、なかなか最後の一歩を踏み出せないお会社があるのは事実で、そういった方へのメッセージ、ということでお聞きできればと思います。松尾
:私は随行者という立場で参加しましたが、「事業構想をどのように進めていくのか」という視点での考え方やツールを、講義で聞くだけでなく実際にプロセスを体験し、修得できるというのが、とても大きいところだと思います。もちろん、グループ研究のままではなく、やり方を咀嚼して自社に合わせて考え直さなくいけないのは当然ですが、その考え方を徹底的に学べる、という視点で考えると、トータルでは決して高い参加費ではない気がします。大塚
:会社というのは、突き詰めて考えると最終的には“人”なんですよね。「組織能力を上げる」ということは、すなわち「人の生産性を上げること」なので、このセミナーへ派遣するという事は、人に対しての投資だと思っています。
人に投資することは結果的に組織能力が上がる、という事ですから、それによってお客さま価値を創造し、企業価値を向上する、というこの基本路線を考えられるようになるとよいと思います。繰り返しですが、つまるところは人財育成なんです。それをしなくていいのか、という事を自問してもらえると良いと思います。
聞き手
:まさに“企業は人なり”ということですね大塚
: 当社では、人事労務本部内にTQM推進部を置いています。私は、TQMのコアは、人づくり=人財育成だと考えます。TQMの考える、人財育成を、人事部門が担っていく、というのが効率的・効果的であり、TQMの各種手法を活用したキャリア開発、人事制度改革といったところにも繋がっていくと思います。そして、TQMにより効率的・効果的に人が育ち、組織能力も高まっていくということを目指しています。聞き手
:本日は、お忙しいところ貴重な話をお聞かせいただきありがとうございました。今後のご活躍と貴社の益々の発展をお祈りいたします。
(聞き手:日本科学技術連盟 品質経営創造センター 部長 安隨 正巳
原稿まとめ:品質経営創造センター 菅田 未優)
原稿まとめ:品質経営創造センター 菅田 未優)