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日刊工業新聞連載記事

顧客価値創造と現場力(5)顧客の成長に寄り添うという発想

この記事は日刊工業新聞社の転載許諾を受けています。

顧客の何の実現にコミットするか

新規顧客の獲得に要するコストは、既存顧客の維持と強化に要するコストの5?20倍と言われており、長期にわたる良好な顧客関係性構築の重要性が高まっている。この課題に対して、旅行業界の中で屈指の高利益率を誇るクラブツーリズムの取り組みを紹介する。同社の特徴は「どこに行くかより、何を体験するか」というフレーズに凝縮されている。ハイキング、写真撮影、花、歴史などテーマ旅行のラインアップを豊富にそろえ、さらに、その体験を存分に楽しむための各種講座も充実している。同社はテーマ旅行商品や講座を通じて、どのような顧客価値を創造しているのだろうか。

顧客はクラブツーリズムと出会い、自分の興味関心領域を見つける(第1期)。それは、未来の自分の得意分野に出会うことを意味する。そして、深く学ぶ(第2期)。興味関心事が得意分野に変わっていく過程(=得意を創る過程)だ。ここまでは「自己の満足を得るフェーズ」だが、顧客の喜びは「自分の経験を生かして、他者から承認を得るフェーズ」に移行する。それは自分の『得意』を還元する過程であり、自分の学びを伝えることによって他者の興味関心事の開発や学習に協力すること(第3期)、そして、自分の経験を生かして、新たな体験を企画・実行することだ(第4期)。以上の過程を通じて、同社は「人に、社会に、生きがいを広め続ける」ことにコミットしようとしている。

特筆すべきことは「長期的展望に立って顧客の成長に寄り添う」という顧客志向である。企業が提案する価値テーマに対して共感した顧客は、その企業が提供する商品を価値実現手段として受容するだけでなく、その企業が新たに編み出す実現手段の誕生を心待ちにする。顧客とともに歩む価値共創シナリオを顧客と共有し、このシナリオを実現するためのサービスを継続的に充実させていく。これは同社に、持続的な競争優位をもたらすと期待される。

職業能力開発総合大学校 客員教授 加藤雄一郎