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日刊工業新聞連載記事

顧客価値創造と現場力(3)共通価値の創造

この記事は日刊工業新聞社の転載許諾を受けています。

ICTでつなぎ現場を変革

昨今、「CSV(共通価値の創造)」が注目されている。「企業が追求する経済的価値(利益)」と「社会的価値」の両立を目指し、企業の事業活動を通じて社会的な課題の解決を目指す新たな経営の考え方であり、外部適応の重要性を説くマイケル・ポーターによって提唱された。わが国におけるCSV経営の象徴的一例としてコマツのスマートコンストラクション事業が挙げられる。

建設産業は、社会インフラの整備や維持・更新の重要な担い手であると同時に、地域経済・雇用を支え、災害時の対策や復旧など国民生活や社会経済を支える大きな役割を担っている。しかし、現場の技能労働者の減少、若手入職者の減少、高齢化の進行など人手不足が深刻化しており、2025年には130万人不足すると試算されている。建設労働人口不足の克服という社会的要請に応えるべく、コマツは「現場の生産性の大幅向上と安全でスマートな現場の実現」という共通価値を掲げ、経験を問わず、非熟練オペレーターでも熟練オペレーター並みの作業制度を可能にするICT建機など「ハード」や、的確な工程設計と管理を可能にするクラウド型プラットフォーム「KomConnect」など「ソフト」を実現手段として用いて、建設現場で施工に携わる人・機械・モノをICTで有機的につなげることを推進している。

「一緒に実現を目指す共通価値」を御旗として掲げることで、顧客をはじめとするステークホルダーを魅了し、「実現手段としてのハードとソフト」を継続的に生み出すコマツの取り組みは、前回紹介したサービス・ドミナント・ロジックの考え方にも合致する。価値実現手段としてのハードおよびソフトは、個々に独立して使用することもできるが、組み合わせて使用した方が、価値実現度合いが圧倒的に高い。また、継続的に新たな実現手段が誕生しており、持続的な競争優位をもたらす理想的な価値創造のアプローチといえよう。

職業能力開発総合大学校 客員教授 加藤雄一郎